
なぜ“キャリア資産”が最初の3年で決まるのか
入社直後は、目の前の業務をこなすだけで精一杯。
でも3年後、「選べる自分」になっている人と、「選ばれるのを待つ自分」に分かれます。違いは、日々の忙しさの中でキャリア資産(経験・スキル・信用・実績・つながり)を“意図して”積み上げたかどうか。
賃上げや雇用の流動化が進む中、若手の年収分布は動きが大きい時期です。たとえばdodaの最新データでは、2023年9月〜2024年8月の登録者約60万人から算出した平均年収は426万円。賃上げの追い風がある今こそ、主体的に市場価値を高める努力が年収アップの鍵だと示されています(出典:doda 平均年収ガイド)。doda
一方、新規大学卒の3年以内離職率は33.8%。3人に1人が3年を待たずに転機を迎える時代に、積み上げ方の設計がないと迷いやすいのも事実です(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」)。厚生労働省
──私はWEB・児童福祉・建設の3業界で人事部長を歴任し、採用〜育成〜定着の現場を横断してきました。現在は現役の企業向け採用支援サービス提供者として、企業が「どんな若手を評価するか」を日々見続けています。経験上、キャリア資産は“才能”ではなく“設計と習慣”で増えます。この記事では、その設計図を具体化します。
「キャリア資産って、何をどう増やせばいいの?」
Q1. キャリア資産ってお金の話?
A. いいえ。ここでの資産は「経験(Ex)・スキル(Sk)・実績(Pr)・信用(Cr)・つながり(Nt)」の5要素。お金は結果。
Q2. 新卒の自分に“資産”なんてある?
A. 「行動ログ」と「小さな改善」は立派な資産。定期的に言語化し可視化すれば、評価と成長の通貨になる。
Q3. 何から始めれば?
A. まずは“見える化”→“伸ばす”→“広げる”の順番で。次章で設計図を渡します。
若手が“資産を作れない”3つの理由
- 忙しさの渦:事実(やったこと)を記録せず、経験が“砂のように”流れる
- 評価の不透明:何が評価されるか不明で、投資すべきスキルを誤る(業界横断で頻出の課題)
- 短期志向:転職サイトの情報に流され、自分のOS(意思決定基準)が育たない
データ面でも、若手の関心は「挑戦」や「確実遂行」などのバランスにシフトし、“学び直し”や“スキル獲得”を重視する流れが強まっています(リクルートMS「新入社員意識調査2024」)。リクルートMS
また、企業側もリスキリング施策の導入は離職を高めないという認識が優勢で、スキル明示とキャリアパス接続の重要性が示されています(経産省「人的資本経営に関する調査」)。経済産業省
“5資産”を増やした若手のケース
ケースA:WEBマーケのNさん(入社2年)
行動:週次でKPI2指標(CTR/CVR)だけを“1行ダッシュボード”に記録。施策→結果→学びを15分で振り返り。
結果:3か月でCVR+0.8pt。四半期レビューでプロジェクト共同リードに昇格。
資産:Ex(施策経験)/Sk(仮説検証)/Pr(数値実績)/Cr(上司の信頼)。
ケースB:児童福祉のSさん(入職1年)
行動:事例メモを標準化(「前→後」「関わり」「評価」)。週1で共有会。
結果:新人教育担当に抜擢。離職兆候の早期把握にも寄与。
資産:Ex(ケース対応)/Sk(記録・コミュ力)/Cr(同僚・保護者の信頼)/Nt(他職種連携)。
ケースC:建設のKさん(入社3年)
行動:安全・納期・連携の3評価軸を掲示化。協力会社ミーティングを月1で主催し議事録化。
結果:評点+12%、主任候補へ。協力会社ネットワークが拡充。
資産:Pr(評価点)/Cr(現場長・協力会社の信頼)/Nt(外部ネットワーク)。
共通点は「見える化→標準化→共有」。資産は“積む”より“見せる”で価値が上がる。
(※年収動向の現実感:20代平均360万円など年代別の最新統計はdoda発表に詳しい。パーソルキャリア)
新卒でもできる“キャリア資産5式”
元・WEB/児童福祉/建設の3業界人事部長として、定着・抜擢・昇給に直結した現場直伝の型を公開します。
資産式①:経験(Ex)を「1行ログ」で採掘
- ルール:1日1行、Before→After(例:FAQ 2件を改訂→問合せ平均回答時間−18%)
- 週次:学び3行(Keep/Problem/Try)
- 効用:面談・面接で“再現性のある成果”を語れる
資産式②:スキル(Sk)を月間テーマで深掘り
- 月ごとに1スキルだけ(例:ヒアリング力、Excel関数、図解)
- 学び先:社内OJT+外部の無料講座/省庁・研究機関のレポート要約
- チェック:30日で成果物1つ(テンプレ、マニュアル、可視化ツール)
資産式③:実績(Pr)を“成果フォーマット3種”で固定
- 数値:KPIの改善幅(%/pt/時間短縮)
- 改善:業務のムダ削減(例:手戻り−30%)
- 貢献:同僚・顧客の変化(事例で語る)
→ dodaの分析が示すとおり、主体的に市場価値を高める努力が年収向上を牽引。“成果の見せ方”がレバレッジ。doda
資産式④:信用(Cr)を“約束×フィードバック”で増やす
- 小さな締切の遵守/進捗の早報・中報・完了報
- 1on1で相互FB:上司の評価軸を言語化してもらう
- 結果:任される範囲が拡大=裁量という資産を得る
資産式⑤:つながり(Nt)を“隣接×貢献”で広げる
- 隣部署に15分ヒアリング/学びを社内ノートで共有
- 社外は業界セミナー1回/月+名刺交換→お礼メモ送付
- 公的統計や研究機関の一次情報をウォッチ(総務省 就業構造基本調査など)。総務省統計局+1
“資産思考”で3年後に起きること
- 選択の自由度UP:横移動/挑戦部署/副業・社外活動の可否
- 評価の透明化:上司と共通言語(KPI・改善・貢献)で対話できる
- 年収の伸び代:実績の提示が容易になり、抜擢・交渉の土台が揃う(年収トレンドの上昇局面を捉えやすい)。doda+1
- メンタルの安定:資産が“自分に残る”感覚が、環境変化への耐性になる
重要:転職=逃避ではなく資産の運用。資産を増やしてから動くほど、次のステージの自由度が上がる。
行動プラン・セルフワーク
明日からできる「キャリア資産を増やす3アクション」
- 1行ログを今日から
例:客先Q4件のFAQ整備→問い合わせ一次応答率+22% - 月1スキルを宣言
今月は「図解化」。毎週1つ社内資料を図で置き換える - 15分ヒアリング/週
隣部署の“困りごと”を1つ可視化→翌週ミニ提案
転職を見据えた“資産棚卸し”ワーク(5分版)
- 経験:直近1か月の主要タスク5つ
- スキル:強み3/弱み1(次月テーマ化)
- 実績:数値/改善/貢献のどれかで1つ
- 信用:誰に約束し、どう守った?
- つながり:新規1/強化1(お礼メモ)
まず1つだけでOK。完璧主義より回数が資産化を進めます。
まとめ|転職は「勢い」ではなく「運用」──資産を持って次へ行こう
- キャリア資産=Ex・Sk・Pr・Cr・Ntの5要素
- 見える化→深掘り→拡張が成長の順序
- 市場は“語れる若手”を評価し、学び直しを後押しする潮流にある(人的資本・リスキリングの調査より)。経済産業省
転職は「勢い」ではなく「設計」。そして設計には“自分を理解する時間”が必要。
行動すれば変わります。今日の1行ログから始めましょう。
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“転職してよかった”と思える道を、一緒に設計します。
参考・出典(一次情報/統計)
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」:大卒3年以内離職率33.8%(令和4年卒) 厚生労働省
- doda「平均年収ガイド2024」:平均年収426万円、主体的学習と年収の関係言及あり doda
- dodaリリース「平均年収ランキング2024(年代別)」:20代平均360万円ほか パーソルキャリア
- 経済産業省「人的資本経営に関する調査」:リスキリングと離職率の関係、スキル明示とキャリア接続の重要性 経済産業省
- 総務省「就業構造基本調査(2022)」:就業構造の基礎資料(副業・就業動向の把握に活用) 総務省統計局+1
- リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2024」:若手価値観の傾向(挑戦×確実遂行)


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