
その職務経歴書、「事実」は書いているのに「価値」は伝わっていますか?
「成果を書いたつもりなのに、書類で落ちる」「自分の強みが伝わらない」——多くの方が抱える悩みです。私はWEB・児童福祉・建設の3業界で人事部長を務め、現在は現役の企業向け採用支援サービス提供者として採用現場に日々立ち会っています。現場目線で断言します。“伝わらない人”には、職務経歴書の設計そのものに共通の欠陥があるのです。
本稿では、誤解を正し、採用側の思考を解き明かし、今日から直せる具体策まで落とし込みます。
なぜ、あなたの職務経歴書は“読まれても刺さらない”のか
- 「業務内容を丁寧に書けば伝わる」という誤解
- 「数字があればOK」という短絡
- 「全部盛りで網羅すれば安全」という過剰
採用側は“要件適合”と“再現性の見立て”で読み、短時間で比較します。書類では約5割が不通過とされ、落ち込み過ぎない視座も必要ですが、設計次第で通過率は変えられます。リクナビNEXT
3業界で見た“伝わらない人”の共通点(要約)
- 事実列挙で成果の文脈がない/2) 指標がバラバラで比較不能/3) 役割・難易度・制約条件が抜け、再現性が見えない/4) 求められていない武勇伝/5) 社内肩書インフレで実質が不明
心理・経済・労務の3視点
心理:採用側は“短時間でリスク回避”をする
中途採用では「即戦力の見立て」が最重視。ミドル層の評価軸は「業務経験」「専門知識」「コミュ力」が上位という調査は、職務経歴書に適合経験の証拠を求めていることを示します。エン株式会社(en Inc.)+1
経済:賃上げ・人手不足下でも“誰でも通る”わけではない
平均年収は2024年に426万円まで上昇し、人材の取り合いは続いていますが、必要人数の充足に苦戦する一方で選考の目はむしろシビア。企業は“合う人”を速く見つけたいのです。doda+2persol-career.co.jp+2
労務:労働市場の構造変化と“肩書インフレ”
市況ではタイトル(肩書)のインフレが進み、肩書だけではレベルが判別できない状況。「Senior」と名乗っても実務レベルが伝わらないため、役割範囲と成果で実質を示すことが不可欠です。jp.wsj.com
比較実例(WEB・児童福祉・建設)
- WEB:職務が「プロジェクト横断」で曖昧化しがち。担当範囲・KPI・関与フェーズを書かないと実力が判断不能。
- 児童福祉:法令遵守・加算算定・保護者連携など、成果指標が定性的に寄りがち。監査結果や稼働率などの客観数値が鍵。
- 建設:安全・工程・原価の三点セットのうち、工程短縮や出来高を数値で置き換えると一気に伝わる。
データ補足(公的資料の視点)
厚生労働省『労働経済の分析(令和6年版)』では、人手不足への対応・労働移動の活性化が焦点。つまり「移る人が増える=比較される前提」で、書類の設計力が効く時代です。厚生労働省+1
採用現場で起きた“伝わらない”のリアル
ケース1:WEBディレクター(30代)——「PV◯万」と書いたのに刺さらない
Before:
- Webメディアの運用を担当。PV50万→80万に成長。
- 進行管理、制作ディレクション、SNS運用。
After(採用側に刺さる書き方):
- 役割:新規記事のキーワード設計~公開後改善まで一気通貫。編集3名をリード。
- 目的KPI:月間自然流入+30%(6か月)、CVR1.8%→2.4%。
- 再現性:3本の成長仮説(内部リンク網再設計/検索意図の階層化/スキーマ導入)で指名検索+12%。
- 制約:予算月30万円、外注ゼロ。
数字だけでなく役割・難易度・仮説を添えると“再現性”が見える。
ケース2:児童福祉(管理者)——「保護者対応に注力」では弱い
- 監査指摘0件連続2年、加算算定率95%、職員定着率88%(前年+12pt)。
- 複数支援機関連携で待機児童5名解消。
- 行動援護の事故件数を月3→1に削減(ヒヤリハット分析→導線改善)。
数字+プロセスで安全・法令・運営の三拍子が伝わる。
ケース3:建設(現場代理人)——肩書は立派、でも中身が曖昧
- 出来高1.2億/工期8か月/公共。
- 工程短縮7日、外注比率△10%、労災0。
- VE提案で資材コスト▲4%(年間▲480万円)。
「何を、どれだけ、どんな制約で」をワンフレーズで。
人事の裏側:
採用会議は“1人あたり5〜10分”で比較されることが多い。「要件適合→再現性→加点要素」の順で見られ、誇張や肩書インフレは即減点。だからこそ、役割・難易度・結果・学びの4点セットが効く。
④ 解決策・実践法:3ステップで“伝わる職務経歴書”に再設計
ステップ1:自己分析——“再現性の設計図”をつくる
- 棚卸しテンプレ(抜粋):
- 課題の定義(何を解きに行ったか)
- 役割・規模(期間、人数、予算、関係者)
- 行動と意思決定(仮説→施策→検証)
- 成果の指標化(KPI/安全/品質/コスト/速度)
- 再現性の言語化(他社・他案件での応用点)
- 元人事の視点:「成果“だけ”は弱い」。“なぜできたか”の仕組み(仮説・判断)が次の現場適用の根拠になります。
ステップ2:情報収集——“要件適合の証拠”を集める
- 求人票→要件の分解:
必須/歓迎/利用ツール/成果責任/ステークホルダー/規模。 - 市況の根拠付け:賃上げや人手不足の文脈を踏まえ、自分の経験がどの課題に刺さるかを明記(例:コスト最適化×品質維持や人材定着×安全)。
データ参照:年収水準や人手不足の傾向、採用の充足難など。doda+2persol-career.co.jp+2
ステップ3:転職活動の設計——“読みやすさ×比較可能性”を担保
- 1枚目の設計(最重要):
- ヘッダー:肩書(実務レベル)+専門領域+得意KPI
- サマリ:役割・規模・武器3つ(例:工程短縮/原価管理/多職種連携)
- 定量ハイライト3行(面積を使って目立たせる)
- 職務詳細:
- R(役割)-C(課題)-A(行動)-R(結果)で一案件を4行以内
- 制約条件(予算・人員・期限)を添える
- 指標は統一単位(%/万円/日数/件数)で比較可能に
- 地雷回避:
- 社内称号や独自肩書の氾濫→外向けレベル表現に置換(例:「上級」→「担当範囲:要件定義~移行」)。肩書インフレ時代の対処。jp.wsj.com
- 網羅し過ぎ→求人要件に合わない過去は折り畳む/概要化
- 抽象語(貢献/尽力)→行動動詞+結果で具体化
- 面接までの一気通貫:
ミドル層の評価軸(業務経験・専門知識・コミュ力)を、書類→面接質問→事例トークで同じ言葉に。エン株式会社(en Inc.)
補足:求職者の“求人選びの軸”は「自分にできそうか」「条件」が上位。企業も同じく“できる根拠”を探していると捉えると、書類の焦点が合います。エン転職
伝わると“何が変わる”のか
- 面接の質が変わる:書類の仮説が面接で深掘りされ、経験の再現性を議論できる。
- 年収交渉の根拠が増える:市場が上向く局面で、成果×仕組みが説明できれば給与テーブルの上位側に着地しやすい。doda
- ミスマッチ減少:児童福祉では法令・安全、建設では工程・原価、WEBではKPIといった“業界の価値観”に合わせて言語化できるため、入社後の齟齬が減る。
関連して、こちらの記事でも詳しく紹介しています → 転職後の後悔を防ぐ“キャリアの棚卸し”とは
関連:人事が語る給与テーブルの裏側──評価と年収の関係
⑥ 行動プラン・セルフワーク
明日からできる「3つのキャリア行動」
- 案件ミニ台帳を作る:案件ごとにR-C-A-Rを4行、制約と指標を必ず記録。
- “求人要件の辞書化”:志望3社の必須/歓迎を表にし、共通語彙をサマリに反映。
- レビューをもらう:採用目線の友人・キャリアアドバイザーに5分レビューを依頼(「何が再現できそうに見える?」のみ質問)。
転職前にやっておきたい“棚卸しワーク”
- 紙に「強みが活きた瞬間」「詰まった瞬間」「学び」を各5つ。
- それぞれに証拠(数字・第三者評価・成果物)を1つずつ紐づけ。
- 仕上げに「他社でも再現するなら何を同じにする?」と自問。
5分でできる『転職の軸』の見つけ方
- 価値観(3語):安全/品質/速度/コスト/顧客価値/社会的意義
- 得意領域(3語):例)工程短縮/教育設計/運用改善
- 嫌いな仕事(3語):やらない軸を明確化
- マッピング:価値観×得意の交点をサマリ冒頭に据える
キャリアアドバイザーの転職相談サービスでは、自己分析・市場分析・求人戦略を一気通貫で支援。
“転職してよかった”と思える道を一緒に設計します。
まとめ:誤解を壊し、設計に落とす
- 誤解:「事実を並べれば伝わる」「数字だけでOK」「肩書が強ければ伝わる」
- 真実:採用側は要件適合×再現性を短時間で見極める
- 設計:役割・難易度・指標・再現性の4点セットで“他者比較に耐える”職務経歴書に
結論——転職は『勢い』ではなく『設計』。そして設計には“自分を理解する時間”が必要。
行動すれば、キャリアは必ず動きます。
付録:チェックリスト(印刷推奨)
- サマリ冒頭に役割・規模・得意KPIが1スクロール内に収まっている
- 1案件=4行(R-C-A-R)で制約条件が見える
- 指標は%/万円/日数/件数で統一
- 社内肩書は役割範囲に言い換えた
- 求人要件の語彙を本文に反映した
- 証拠(URL/資料/評価表)は提出可能な範囲で準備
- ミドル評価軸(業務経験・専門知識・コミュ力)を面接回答と同語彙で整合エン株式会社(en Inc.)
参考データ(本文で示した主な出典)
- 厚生労働省『労働経済の分析(令和6年版)』:人手不足・労働移動の分析。厚生労働省+1
- doda『平均年収ランキング2024』:平均年収426万円、上昇傾向。doda+1
- リクルートワークス研究所・各社調査:充足難や書類通過の視座。spi.recruit.co.jp+1
- エン転職:求職者の求人選びの軸(できそうか/条件)。エン転職
- 肩書インフレの国際記事:肩書より実務の実質が重要。


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